十日町簡易裁判所 昭和41年(ろ)4号 判決 1966年9月16日
被告人 福崎満
主文
被告人は無罪。
理由
本件公訴事実は、
被告人は、昭和四一年六月七日午後七時四〇分頃十日町市春日町一丁目附近道路において、法令に定められた装置が破損していないため交通の危険を生じさせるおそれがある車両ではないことを確認して運転すべき義務を怠り、方向指示器の両方が破損しているため交通の危険を生じさせるおそれがある車両であることに気づかないで二輪自動車を運転したものである。
というものである。
被告人の当公判廷における供述、司法巡査の作成にかかる交通違反現認報告書および被告人の検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書によると被告人は、右公訴事実記載の日時場所において、所謂始業点検をしなかつたため、故障のため方向指示器の点滅しないことに気づかないで、二輪自動車を運転した事実が認められる。
道路交通法第六二条および道路運送車両法第四一条第一五号によると、自動車は、運輸省令で定める保安上の技術基準に適合する「方向指示器その他の指示装置」を備えたものでなければ運行の用に供してはならないことを定めている。
しかしながら、右の運輸省令で定める保安上の技術基準を定めた「運輸省令第六二号道路運送車両の保安基準(以下保安基準と略称する)第四一条第一項但書は、同条第一項本文において、備付を義務づけた方向指示器について、「二輪自動車、側車付二輪自動車及び被けん引車にあつてはこの限りでない」と規定しているのであるから、本件の如く二輪自動車については、方向指示器の備付を免ぜられていると解すべきもののようである。
そこでつぎに、二輪自動車と構造性質の近似する原動機付自転車との関係について実質的に検討すると、道路運送車両法第四四条第九号は自動車に関する同法第四一条第一五号と同趣旨の定めをしながらその委任を受けた保安基準には自動車に対する第四一条第一項本文の如き方向指示器そのものの備付を義務づけた規定が存しない。一方道路交通法施行令第二条によれば左折、右折その他車両が進路を変えるときは、左腕あるいは右腕による合図の方法が定められ、又は方向指示器を操作することによつて合図すべきことが定められているところから、一般に運転者席が車室内にない車両である二輪自動車、側車付二輪自動車、原動機自転車などについては、いずれも方向指示器が備え付けられていないとしても、直ちに交通の危険を生ぜしめるおそれのある整備不良の車両と結論することはできない。
もつとも、保安基準第四一条第七項第一号、第七号、第九号および第一〇号、同第六三条の二によれば、二輪自動車、原動機付自転車の方向指示器について、一定の技術基準を示しているので、これらの車両についても、方向指示器の備付を義務づけているかの如くも解されるが、前示の如く二輪自動車については、保安基準第四一条第一項但書によつて除外されていると解しうること、原動機付自転車については、二輪自動車との均衡上および道路交通法施行令第二一条が左腕又は右腕による合図の方法を定めていることに照らして保安基準の右の各規定とても、方向指示器そのものの備付を義務づけたものではなく、方向指示器によつて右折、左折などの合図がなされる場合における合図の確認を容易ならしめるなど交通の安全確保のために、二輪自動車原動機付自転車に方向指示器を備付けた場合における技術上の基準を示したにとまると解するのが相当である。
以上要するに二輪自動車については、方向指示器の備付を義務づけられてはいないと解すべきである。
これを本件についてみるに、被告人は、前示認定の如く方向指示器の点滅しない二輪自動車を運転したというのであるから、それが交通の危険を生ぜしめるかどうかについて判断するまでもなく、被告事件が罪とならないときに当るから、刑事訴訟法第三三六条前段を適用して被告人に対して無罪の言渡をする。
(裁判官 福田満男)